
マロッタはなぜ予算なしで勝てるのか|インテル・ミラノの補強術と、ハゲていく男たち
インテリスタの不動産論|第二弾
マロッタはなぜ予算なしで勝てるのか|インテル・ミラノの補強術と、ハゲていく男たち
※ここで言うインテルは、イタリア・ミラノのサッカークラブ「FCインテルナツィオナーレ・ミラノ」(Inter Milan)。半導体メーカーのIntel(インテル)とは別物である。
マッシモ・モラッティの時代が終わり、インテルは別の戦い方を覚えなければならなかった。
オイルマネーはもうない。
プレミアリーグのクラブが何百億円も使う移籍市場で、同じようには戦えない。
セリエAそのものも、かつてとは違う。
そんな中で、ジュゼッペ・マロッタは別の武器を研ぎ澄ませた。
目利きだ。
先に結論。マロッタは、完成したスターを最高値で買わない。評価がまだ固まっていない選手、契約満了でフリーになる選手、一度評価を落とした選手、そして今のチームに必要な選手を見抜く。
その結果、インテルは2021年、2024年、2026年とスクデットを取り、2023年と2025年にはチャンピオンズリーグの決勝まで進んだ。金がないことを言い訳にせず、金以外のところを使う。それがマロッタのインテルだ。
ジュゼッペ・マロッタとは|インテル・ミラノの会長
マロッタは、イタリアで長く強化責任者を務めてきた男だ。ユヴェントスの黄金期をつくった後、2018年12月にインテルへ来た。
2024年5月、インテルの持ち主が米国の投資ファンド、オークツリーに替わる。その翌月、マロッタは会長に就いた。補強の現場を知る人間が、クラブのトップに立ったのである。
インテルには、なぜ金がないのか
モラッティが2013年にクラブを手放した後、持ち主はインドネシアのエリック・トヒル、中国の蘇寧、米国のオークツリーへと替わった(くわしくは第五弾)。
その間に、ヨーロッパの金の流れも変わった。巨額の放映権料を持つプレミアリーグ、中東の資本が入ったクラブが、選手の値段を引き上げていく。セリエAのクラブが同じ土俵で競り合うのは、もう難しい。
蘇寧の時代の終わりには、オーナーがクラブを担保に金を借り、返せずにファンドに渡るところまでいった。インテルは、使える金に限りのあるクラブになったのだ。
マロッタの補強術|インテル・ミラノはどんな選手を獲るのか
プレミアの金には勝てない。ならば、同じ方法で戦わなければいい。
| 見るところ | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 評価が固まる前 | 大きく値上がりする前に獲る | カリアリから来たニコロ・バレッラ |
| 契約満了のフリー | 移籍金ゼロで、経験と実力を手に入れる | ミランから来たハカン・チャルハノール、ヘンリク・ムヒタリアン、マルクス・テュラム |
| 一度評価を落とした選手 | 本来の力が戻る場所を用意する | 前のクラブで出番を失っていた選手 |
| 育成・買い戻し | 自前で育てた若手を、必要なときに呼び戻す | アレッサンドロ・バストーニ、アレクサンダル・スタンコヴィッチ、フランチェスコ・ピオ・エスポージト |
市場が動くまで待つ。フリーになる選手を見る。若手を見る。一度評価を落とした選手を見る。今いる選手との組み合わせを見る。
チャルハノールは、同じミラノのライバル、ミランとの契約が切れたところを移籍金なしで獲った。ミランの10番が、インテルの中盤の心臓になった。インテリスタとしては、痛快な補強である。
後から振り返れば、信じられないような条件だった選手もいる。正直に言って、マロッタの補強にハズレはほとんどない。
一番の補強は、バストーニとバレッラ
その中で一番を選ぶなら、バストーニとバレッラだ。
バストーニは、若い頃に獲って他のクラブで経験を積ませていた左利きのセンターバック。呼び戻して主力に据え、今ではイタリア代表の守備の中心になった。左からボールを持って上がり、相手の守備を一枚ずらす。今のインテルの大きな武器である。
バレッラは、カリアリから来た中盤の選手だ。今のインテルの心臓であり、エンジンである。どちらも、今の何倍もの値段がついておかしくない選手になった。
失敗は、補強ではなく「売り方」
では、マロッタのインテルに弱点はないのか。
ある。補強ではなく、選手の売却が下手なことだ。
獲るときの目利きは確かなのに、手放すときに高く売れない。売るべき時期を逃したり、安く出してしまったりする。金のないクラブにとって、売って得る金は次の補強の元手である。そこがもう少しうまければ、と毎年思う。
不動産も同じだ。買うときの目利きと、売るときの判断は別の技術である。良い物件を安く買えても、売る時期と値付けを間違えれば、利益は残らない。
魔法使いと、髪が後退していく男たち
マロッタの補強は、ときどき魔法に見える。金がないはずなのに、気がつけば強いチームができている。
でも魔法の裏には手間がある。何十人もの選手を見て、契約の期限を見て、年齢を見て、チームに足りないものを見る。その積み重ねだ。
見ている側も、毎年の補強期間は気が気ではない。市場が閉まる最後の日まで、誰が来るのか分からない。
そして、バレッラが走る
ただ、バレッラを見ていると胸が痛くなる。
あの男は毎試合、限界まで走る。
削られても立つ。
また走る。
諦めるという選択肢が、たぶん存在しない。
その結果なのかどうかは知らないが、生え際が試合を重ねるごとに少しずつ後退している。前から、じわじわと。
私の髪も、インテルを応援するたびに白くなってきた。
バレッラは前から失い、私は色を失った。
我々は、それぞれの形でこのクラブに削られている。
インテルと薄毛の話|チャルハノールの植毛、エステバン・カンビアッソのスキンヘッド、パラシオの後ろ髪
髪の話を、もう少しだけ続ける。
2026年8月、チャルハノールはイタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙のインタビューで、植毛したことを認めた。ダービーでは、チームメイトだけでなく、ミランのルカ・モドリッチにまでいじられたらしい。本人は「今のほうが気分がいい」と言っている。それでいいと思う。
髪との付き合い方は、人それぞれである。
ジネディーヌ・ジダンのように、堂々と頭を光らせて、それがむしろ格好いい選手もいる。ウェイン・ルーニーのように、植毛で、誰もいじれない増え方をした人もいる。
インテルに多かったのは、カンビアッソのパターンだ。生え際が後退してきたら、迷わず剃ってスキンヘッドにする。潔い。中盤の底で全部を拾う、あのプレーそのままの決断である。
逆に、少しだけ髪を残す選手は少なかった。だからこそ、ロドリゴ・パラシオは見ていて悲しくなった。頭頂部が寂しくなっても、後ろ髪だけは細く長く編んで残していた。あの一本に、何を懸けていたのか。ゴールを決めるたびに揺れる後ろ髪を、私は複雑な気持ちで見ていた。
ガイスカ・メンディエタは、長髪でフサフサに見えた。ところが試合が始まると、汗で髪が張りついて、すっかり地肌が透けて見えた。少なくとも、テレビの前の私にはそう見えた。
見た目と中身が違うのは、物件も同じだ。写真では広く明るく見えた部屋が、行ってみると狭い。逆に、写真では冴えない部屋が、実際は風通しも眺めもいい。メンディエタの髪と同じで、試合(内見)が始まるまで分からない。だから私は、必ず現地に行く。
ちなみに私は、減ってはいない。白くなっただけだ。インテルのせいで。
それでも、次を探す
マロッタは、また次の一手を探す。
壁がある。予算も限られている。市場も不利だ。それでも、できることをやる。
私がこの男を尊敬するのは、勝ったからだけではない。やり切ろうとするからだ。
そして、この話を見ているうちに、自分の仕事と少し似ていることに気づいた。
不動産にも、予算がある。条件がある。全部を買えるお客様など、ほとんどいない。その中で、どう探すか。第三弾は、そこから始まる。
2026年夏、また違うマロッタを見る
2025-26年シーズン、インテルはクリスティアン・キヴ監督のもとで21回目のスクデットを取った。
それでも夏の補強は、なかなか進まなかった。市場の最後まで待ち、チームに足りないものを埋める。ジョン・ストーンズ。ジェド・スペンス。カーティス・ジョーンズ。そしてピオ・エスポージト、スタンコヴィッチ、レオナルド・ボヴィオ。
今季のインテルについては第四弾で書いた。
参考・公式リンク
インテル公式サイト(Inter.it) ↗ インテル公式X(@Inter) ↗ Calcio e Finanza:マロッタがインテル会長に就任(2024年6月) ↗ TuttoMercatoWeb:チャルハノール、植毛を告白(2026年8月) ↗不動産の話を、もう少し
内見では何を見るのか|物件比較の考え方 → そのまま決める前に|不動産セカンドオピニオン → 田町の不動産・マンションガイド → 芝浦の不動産・マンションガイド →※選手・移籍・クラブ経営に関する記述は、公開されている報道・記録をもとにしています。