
インテリスタの不動産論 第4弾|価値が変わったのではない。見る人が変わった。
INTERISTA × REAL ESTATE / VOL.4
インテリスタの不動産論 第四弾
最後に来た3人と、これからの3人
昨シーズン、インテルはスクデットを獲った。
当然、次に考えるのは補強だった。
もう一度スクデットを獲る。
そして、チャンピオンズリーグでプレミアのクラブと正面から戦う。
そのために何が足りないか。
インテリスタなら、それぞれ思うところがあったはずだ。
ところが、夏になっても補強がなかなか進まない。
名前は出る。
毎日のように出る。
そして消える。
また違う名前が出る。
また消える。
いつものインテルの夏である。
私は35年もこれを見ている。
多少のことでは驚かなくなった。
ただし、白髪は増えた。
モラッティの頃とは、もう違う
昔のインテルには、マッシモ・モラッティがいた。
ロナウドを獲る。
ビエリを獲る。
バッジョを獲る。
レコバがいる。
欲しい選手がいれば、とにかく金を出す。
それでも勝てなかった。
そして最後にモウリーニョを呼び、2010年に三冠を獲った。
あの時代の話は、第一弾に書いた。
今のインテルは、あの頃とは違う。
プレミアのクラブが何百億円という金を動かす市場で、同じ戦い方はできない。
だからマロッタは、別の方法で戦ってきた。
目利きである。
完成したスターを最高値で買うのではない。
契約状況を見る。
出場機会を見る。
チームとの相性を見る。
市場が動くまで待つ。
そして、他のクラブとは少し違う角度から選手を見る。
そのインテルを取り巻く資本も動いた
インテルを所有するOaktreeを巡る環境も変わった。
カナダの巨大資産運用会社BrookfieldによるOaktreeの取得が進み、インテルの背後にある資本の景色も以前とは違ってきた。
同時に、長い間プレミアリーグに大きく差をつけられてきたセリエAというマーケットそのものにも、海外資本の視線が向き始めている。
だからといって、突然インテルがプレミアのクラブと同じように金を使えるようになったわけではない。
そんな簡単な話ではない。
それでも、この夏の終盤を見ていると、少し景色が変わったように感じた。
最後に、プレミアから3人来た
ジョン・ストーンズ。
ジェド・スペンス。
カーティス・ジョーンズ。
移籍市場の終盤になって、プレミアリーグで戦ってきた実力者が3人入ってきた。
これは面白い。
少し前まで、こちらがプレミアに選手を持っていかれる側だった。
セリエAで活躍する。
プレミアが買う。
こちらは代わりを探す。
そんな光景を何年も見てきた。
そのプレミアから、今度はこちらが選手を連れてくる。
もちろん、名前だけを見て喜んでいるわけではない。
私は、この3人を獲った理由の方が面白いと思っている。
ストーンズが入ると、後ろからの景色が変わる
ジョン・ストーンズについては、いまさら説明する必要もないだろう。
マンチェスター・シティでグアルディオラのサッカーを経験してきた。
センターバックなのに、センターバックの場所だけにいない。
中盤へ入る。
ボールを持つ。
相手の一列目を越える。
必要なら、そのまま前へ出る。
インテルにはバストーニがいる。
左からボールを持って上がり、相手の守備を一枚ずらす。
これはインテルの大きな武器だった。
そこへストーンズが入る。
バストーニが出る。
ストーンズが中へ入る。
ディマルコが高い位置を取る。
バレッラが動く。
考えているだけなら楽しい。
実際にそうなるかは知らない。
インテリスタは、試合が始まる前が一番幸せなことがある。
スペンスには、むしろ守備を期待している
ジェド・スペンスは速い。
とにかく速い。
だから攻撃で縦へ走る姿を期待する人も多いと思う。
私は少し違う。
スペンスには守備で頑張ってほしい。
ワールドカップのアルゼンチン戦で、強烈に印象に残った場面があった。
アルゼンチンにカウンターを許した。
一点を覚悟するような場面だった。
スペンスは相手より30メートルほど後ろにいた。
そこからだった。
弾丸のように走った。
追いついた。
身体を入れた。
しかもカードをもらわずに、一人でカウンターを止めた。
あの脚力は、前へ走るためだけにあるのではない。
インテルでは、むしろそこに期待している。
ディマルコが前へ行った後ろを、誰が消すのか
インテルの左サイドは攻撃では強い。
ディマルコが上がる。
バストーニが出ていく。
チャルハノールが展開する。
そこへバレッラも絡む。
非常に美しい。
ただし、ボールを失った瞬間は少し怖い。
ディマルコは攻撃に特徴のある選手だ。
チャルハノールも、守備力だけで勝負する選手ではない。
プレミアの速いチームを相手にすると、その裏の数十メートルが致命傷になることがある。
だからスペンス。
30メートル離されても戻ってくる。
一度抜けられても追いつく。
相手のカウンターを、最後に消す。
スペンスが守備で効けば、ディマルコはもっと安心して前へ行ける。
私はそこを見たい。
カーティス・ジョーンズは、チームを前へ運べる
そしてカーティス・ジョーンズ。
この補強は、かなり好きだ。
簡単にボールを取られない。
相手に寄せられても身体を使える。
そして、自分で前へ運べる。
これまでインテルで、後ろからボールを持ってチーム全体を押し上げる仕事は、バストーニが担う場面が多かった。
バストーニが一枚越える。
そのまま10メートル、20メートル持ち上がる。
相手が出てくる。
そこからディマルコやバレッラへ渡す。
非常に大きな武器だ。
ただ、それをセンターバックだけにやらせる必要はない。
ジョーンズが中盤から、それをやってくれればいい。
受ける。
取られない。
一人外す。
そして前へ運ぶ。
たった10メートルでも、自分で運べば相手の守備は動く。
バレッラが前を向ける。
ディマルコが上がれる。
ラウタロにも早くボールが入る。
ピオにも入る。
パス一本ではなく、自分でボールを運ぶことで、チーム全体を前へ押し上げる。
カーティス・ジョーンズには、その仕事を期待している。
そして、スタンコヴィッチが帰ってきた
新加入の3人とは別に、今季どうしても見たい選手がいる。
アレクサンダル・スタンコヴィッチ。
この名字だけで、昔からのインテリスタは反応する。
父はデヤン・スタンコヴィッチ。
2010年三冠の一員である。
だが、父親の名前だけで期待しているわけではない。
私は、彼の守備力に期待している。
チャルハノールを、スタンコヴィッチが助けてくれればいい
チャルハノールはインテルの心臓である。
ボールを受ける。
左右へ散らす。
長いボールを入れる。
セットプレーもある。
攻撃を組み立てる能力は非常に高い。
ただし、守備まで全部を一人に求めるのは難しい。
特に相手のテンポが速くなったとき、中盤の底でチャルハノールの周囲を誰が埋めるのか。
これは以前から気になっていた。
そこへスタンコヴィッチが入る。
ボールを奪う。
セカンドボールを拾う。
相手の前進を止める。
チャルハノールが前を向く時間を作る。
チャルハノールの良さを消さずに、足りないところを補う。
そんな選手になってくれたら、かなり面白い。
そして、ピオ・エスポージト
ピオについては、もう「期待の若手」という言葉だけでは足りなくなってきた。
身体が強い。
前線で収まる。
センターフォワードとして相手センターバックと戦える。
そしてゴールへ向かう。
何より、インテルの育成から出てきた。
これはやはり特別だ。
完成したストライカーを外から買うのとは違う。
自分たちのクラブで育った選手が、サン・シーロで点を取る。
古いインテリスタには、それだけで少し嬉しい。
ラウタロとトゥラムの控えで満足する必要はない。
普通にポジションを奪いにいってほしい。
もう一人、ボヴィオ
レオナルド・ボヴィオ。
まだこれからの選手である。
だから面白い。
センターバックとしてトップチームの中で経験を積んでいる。
ストーンズがいる。
バストーニがいる。
その近くで毎日練習できる。
若いディフェンダーにとって、これ以上の教材はなかなかない。
すぐにレギュラーになれとは思わない。
一年後、二年後に、
「ボヴィオが普通に出ているな」
となってくれればいい。
勝手に、インテル若手三羽烏と呼んでいる
ピオ・エスポージト。
アレクサンダル・スタンコヴィッチ。
レオナルド・ボヴィオ。
私は勝手に、この3人を「インテル若手三羽烏」と呼んでいる。
ちょうどいい。
ピオが前。
スタンコヴィッチが中央。
ボヴィオが後ろ。
3人で一本の背骨になる。
もし数年後、この3人がインテルの主力になっていたら最高だ。
モラッティの時代のように、世界最高のスターを次々に買う楽しさとは違う。
自分たちの若い選手が少しずつ成長し、やがてチームの骨格になる。
今のインテルには、今のインテルなりの楽しみ方がある。
一人の選手に、全部を求めない
こうして今季のインテルを考えていると、補強の意図が少し見えてくる。
スペンスは、ディマルコが前へ出た後ろを守る。
スタンコヴィッチは、チャルハノールの守備を補う。
カーティス・ジョーンズは、バストーニに偏っていた持ち運びを中盤から作る。
ストーンズは、後方から違う形でゲームを組み立てる。
そして前にはピオがいる。
一人の選手に、全部を求めない。
長所はそのまま使い、足りないところを別の選手で補う。
チームを作るとは、たぶんそういうことなのだろう。
ここで少しだけ、不動産の話をする
私は田町・芝浦で不動産の仕事をしている。
そして、お客様のほとんどには予算がある。
駅に近い。
広い。
新しい。
眺望がいい。
駐車場がある。
管理がいい。
そして安い。
全部を一つの物件に求めれば、当然高くなる。
だから、どの長所を残すのかを考える。
駅距離は少し伸ばしても、広さは残す。
築年数は経っていても、立地と管理を取る。
眺望を取る代わりに、駅から少し歩く。
人気の街から一駅ずらして、同じ予算で選択肢を増やす。
全部が完璧な一件を探すというより、その人にとって大切な長所を残し、弱いところを別の条件で補う。
インテルの補強を見ていると、時々この仕事と重なる。
高い選手が、一番必要な選手とは限らない
これは第三弾にも書いた。
マロッタが面白いのは、一番高い選手を探しているわけではないところだ。
今のチームに何が足りないのか。
誰と組ませるのか。
その選手を入れることで、誰がもっと生きるのか。
そこを見る。
不動産でも、有名なマンションがその人に一番合うとは限らない。
一番高い部屋が、一番良い部屋とも限らない。
大切なのは、誰がそこに住むかだと思っている。
インテリスタの不動産論 第三弾|白髪のインテリスタが今日も物件を探す →
今季は、この6人を楽しみにしている
ジョン・ストーンズ。
ジェド・スペンス。
カーティス・ジョーンズ。
そして、
ピオ・エスポージト。
アレクサンダル・スタンコヴィッチ。
レオナルド・ボヴィオ。
完成された力と、これから伸びる力。
この6人がどう混ざるのか。
私は今季、そこを楽しみにしている。
特に若手三羽烏には頑張ってほしい。
ピオが前で点を取る。
スタンコヴィッチが中央で相手を止める。
ボヴィオが後ろから出てくる。
そんな試合を見られたら、長くインテルを見てきた人間としてはかなり嬉しい。
そして、バレッラには今年も走ってもらう
忘れてはいけない。
バレッラである。
今年も走るだろう。
削られても立つだろう。
また走るだろう。
ただし、できればこれ以上前髪を犠牲にしない程度にしてほしい。
第二弾で書いたが、
バレッラは前から失い、私は色を失った。
我々は、それぞれの形でインテルに削られている。
私はもう十分白くなった。
バレッラも、そろそろ守っていい。
白髪のインテリスタは、今年も見る
35年も応援していると、優勝したから満足して終わり、ということはない。
次の夏には、もう文句を言っている。
補強が遅い。
なぜ取らない。
なぜ売る。
交代が遅い。
なぜそこで失点する。
それでも次の試合を見る。
モラッティの時代も好きだった。
モウリーニョの三冠も忘れない。
マロッタの今も面白い。
そして、ピオ、スタンコヴィッチ、ボヴィオが作るかもしれない未来も見てみたい。
今年もインテルを見る。
たぶん、文句を言いながら。
そして翌朝、また物件を探す。
白髪のインテリスタは、今年も忙しい。