
政策金利2%で、東京のマンションは本当に下がるのか|日銀・インフレ・住宅ローンを考える
政策金利2%で、東京のマンションは本当に下がるのか。
第2回|日銀、インフレ、住宅ローン。その先を考える。
前回は、 東京の中古マンション市場で、 成約件数が減る一方、 1億円以上の高額帯の取引が増えていることを確認しました。
では、ここから政策金利がさらに上がればどうなるのでしょうか。
1.25%。
1.50%。
1.75%。
そして2.00%。
「2%まで上がればマンションは下がる」
そう考える人は多いと思います。
しかし、その前に考えなければならないことがあります。
日銀は、不動産価格だけを見て金融政策を決めているわけではない。
日銀の仕事は「マンション価格を守ること」ではない
日本銀行が金融政策を運営する中心的な目的は、 物価の安定です。
現在は、 2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを目指しています。
したがって、
不動産価格が下がる。
住宅ローン負担が増える。
個人消費が弱くなる。
企業収益が悪化する。
株価が下落する。
そうした副作用が多少生じても、 物価上昇を抑える必要性の方が大きければ、 金利を上げざるを得ない局面はあります。
金融引き締めとは、 そもそも需要を少し冷やす政策です。
現在の政策金利は1.0%
2026年6月以降、 日本銀行は無担保コールレート・オーバーナイト物を 1.0%程度で推移させる金融市場調節を行っています。
そして2026年7月の展望レポートでは、
| 2026年度 CPI | +2.5% |
|---|---|
| 2027年度 CPI | +2.4% |
| 2028年度 CPI | +2.0% |
という見通しを示しています。
さらに日銀は、 経済・物価・金融情勢に応じ、 引き続き政策金利を引き上げながら 金融緩和の度合いを調整していく考えを示しています。
つまり、 追加利上げそのものは日銀の基本シナリオから外れていません。
出典:日本銀行「経済・物価情勢の展望 2026年7月」
では、住宅ローンが苦しくなれば日銀は止まるのか
ここも単純ではありません。
住宅ローン負担の増加は、 当然、日銀も金融システムも見ています。
ただし、 住宅ローン世帯が苦しくなったという理由だけで 利上げが必ず止まるとは限りません。
物価上昇が強ければ、 副作用との比較になります。
一方で金融庁は、 地域銀行の住宅ローンについて、 近年は1件当たりの実行金額や貸出期間が増加傾向にあり、 リスク要因が増えている可能性を指摘しています。
2025年の分析では、 貸出期間などによって デフォルト率に差があることも確認されています。
つまり、 金利上昇が長期化すれば 住宅ローン世帯への影響は無視できません。
問題は、住宅を売る前に消費が落ちること
例えば、 年収400万円の世帯が 4,000万円の住宅ローンを抱えているとします。
返済額が増えたからといって、 明日すぐ家を売るわけではありません。
先に減らすのは、 それ以外の支出です。
外食。
旅行。
自動車。
家具。
家電。
衣料。
娯楽。
金利上昇の本当の影響は、 住宅価格より先に個人消費へ現れる可能性があります。
そして消費が弱くなれば、 企業業績にも波及します。
ここまでくると、 単なる住宅市場の問題ではありません。
地方と都心では、同じ金利でも意味が違う
さらに、 住宅ローンの問題を全国一律に考えるのも危険です。
地方・郊外の例
購入価格 4,000万円
現在価格 3,000万円
ローン残高 3,500万円
返済が苦しくなっても、 売れば解決するとは限りません。
売却価格よりローン残高の方が大きいからです。
逆に、
都心部の例
購入価格 1億5,000万円
現在価格 2億円
ローン残高 1億2,000万円
ならどうでしょうか。
単純計算で約8,000万円の資産余力があります。
所有者に十分な所得があるなら、 金利が多少上昇しても 急いで売らなければならない理由は小さい。
物件価格の上昇そのものが、 金利上昇に対するクッションになっています。
だから、利上げの限界は都心マンション以外から現れる可能性がある
これは少し逆説的です。
政策金利が上がったとき、 最も早く苦しくなるのが 東京の2億円のマンション所有者とは限りません。
地方の住宅ローン世帯。
借入依存度の高い中小企業。
設備投資。
個人消費。
こうした部分から、 金融引き締めの影響が強く出る可能性があります。
それが大きくなれば、 日銀も金融政策の効果を無視できなくなります。
ただし、政府という別のプレイヤーもいる
金融政策を行うのは日銀です。
一方、 家計や企業を支える財政政策を行うのは政府です。
利上げによって特定の所得層や家計に負担が集中した場合、 政府には、
減税。
給付。
住宅支援。
エネルギー価格対策。
子育て支援。
などによって負担を軽減する選択肢があります。
実際に何が行われるかは分かりません。
しかし、
日銀がインフレを抑える。
政府がその副作用の一部を支える。
という組み合わせは、 政策として十分あり得ます。
そして、インフレが続けば不動産を上げる力も残る
ここが今回の議論で、 最も重要なところかもしれません。
日銀が2%まで金利を上げなければならないほど インフレが続いているとします。
その世界で、 不動産価格を押し上げる要素は すべて消えているでしょうか。
むしろ、
建築費。
人件費。
土地価格。
家賃。
名目賃金。
企業収益。
これらも上昇している可能性があります。
日銀自身も2026年4月の金融システムレポートで、 大都市圏を中心とした不動産価格上昇の背景として、 建設コスト上昇、 人手不足による供給制約、 堅調な需要、 投資需要、 海外投資家などを挙げています。
出典:日本銀行「金融システムレポート 2026年4月号」
図1|金利上昇とインフレは、不動産に逆方向から働く
| 金利上昇 | 住宅ローン負担↑/投資利回り要求↑/借入コスト↑ | 価格を下押し |
|---|---|---|
| インフレ | 建築費↑/人件費↑/土地↑/家賃↑/名目所得↑ | 価格を上押し |
政策金利2%には、二つの世界がある
だから私は、 政策金利2%を一つのシナリオとして考えるべきではないと思います。
悪い2%
円安やエネルギー価格でインフレが続く。
実質所得は伸びない。
消費は悪化する。
企業収益も弱い。
それでも物価を抑えるため、 日銀が2%まで上げる。
これは不動産市場にも厳しい世界です。
名目経済が強い2%
賃金が上がる。
企業収益が増える。
家賃が上がる。
建築費が上がる。
土地価格が上がる。
その結果としてインフレが続き、 政策金利も2%へ正常化する。
この場合、
政策金利2%と都心不動産価格の上昇は、 十分に共存し得ます。
図2|同じ「2%」でも、意味は全く違う
| 悪い2% | 強い名目経済の2% | |
|---|---|---|
| 賃金 | 弱い | 上昇 |
| 消費 | 悪化 | 維持・拡大 |
| 企業収益 | 悪化 | 増加 |
| 家賃 | 弱い | 上昇 |
| 不動産 | 下押し優勢 | 上昇との共存が可能 |
日銀に、都心不動産を冷やすこと自体のメリットは大きくない
ここも誤解しない方がいいと思います。
日銀は、 東京のマンション価格を上げたいわけではありません。
しかし、 東京のマンション価格を下げること自体が目的でもありません。
むしろ不動産価格が急落し、 担保価値が下がり、 金融機関の融資姿勢が厳しくなり、 企業の資金調達まで悪化するなら、 金融システム上の別の問題になります。
日銀が見ているのは、 マンションが高いか安いかではありません。
その価格変動が、 物価、景気、金融システム全体に何をもたらすか。
だから、「2%になったら下がる」では足りない
政策金利だけを取り出して、 不動産価格を予想するのは難しいと思います。
見るべきなのは、
なぜ金利が上がったのか。
賃金は上がっているのか。
家賃は上がっているのか。
企業収益はどうか。
インフレの原因は何か。
そして、 誰が売らなければならなくなったのか。
その売却が一巡したあと、 誰が売らなくなるのか。
ここまで見て初めて、 不動産市場の次が見えてきます。
では、これから買うならどうするのか。
金利が下がるのを待つのか。
それとも、 金利がある世界でも価値を保つ物件を選ぶのか。
第3回では、 「では、これからどの不動産を買うのか」 を考えます。
