
金利上昇局面で、東京のマンション市場に何が起きているのか|成約減・在庫増、それでも高額帯は売れている
金利上昇局面で、東京のマンション市場に何が起きているのか。
第1回|成約減・在庫増。それでも高額帯は売れている。
TOKYO REAL ESTATE × INTEREST RATES
金利上昇局面の東京不動産を、3回に分けて考えます。
第1回は「いま市場で何が起きているのか」。
第2回は「日銀と金利」。
第3回は「では、これから何を選ぶのか」まで進みます。
01|MARKET
金利上昇局面で、東京のマンション市場に何が起きているのか。
金利が上がれば、不動産価格は下がる。
理屈としては、間違っていません。
住宅ローン金利が上がれば、同じ返済額で借りられる金額は小さくなります。
投資家にとっても、借入コストが上がれば、 以前と同じ価格では採算が合わなくなることがあります。
したがって、 金利上昇は不動産価格にとって下押し要因 です。
では、2026年の東京では実際に何が起きているのでしょうか。
ここが少し面白いところです。
成約件数は減っている。
売り物は増えている。
それでも東京23区の価格は高値圏にある。
しかも、1億円を超える高額帯の取引は、 消えているどころか増えています。
今回はまず予想ではなく、 実際に成立した取引から現在地を見ることにします。
価格より先に、取引件数が落ち始める
不動産市場が転換するとき、 必ずしも最初に価格が大きく下がるとは限りません。
売主は高く売りたい。
買主は、金利も上がったので高値では買いたくない。
この二つがぶつかったとき、 最初に起きるのは値下がりではなく、 取引の不成立です。
例えば売主は2億円を希望している。
一方、買主は1億8,000万円なら買う。
どちらも譲らなければ、取引は成立しません。
価格統計だけを見れば 「2億円から値下がりしていない」ようにも見えます。
しかし実際には、市場の流動性は落ちています。
不動産市場では、価格より先に成約件数を見る。
現在の市場を考えるうえで、 これはかなり重要なポイントです。
2024年の「踊り場」と、2026年は同じではない
実は2024年にも、中古マンションの成約件数が 一時的に弱くなった時期がありました。
2024年7月の首都圏中古マンションは、 成約件数が前年同月比1.3%減。
8月は2.9%減、 9月は4.5%減、 10月は5.9%減。
ところがその後、 11月には10.6%増、 12月には7.4%増へ転換しました。
さらに2025年1月は19.6%増、 2月23.9%増、 3月31.0%増。
つまり2024年の成約減少は、 結果として短い「踊り場」でした。
しかし、当時と現在には大きな違いがあります。
在庫です。
2024年7月の首都圏中古マンション在庫は44,509件。 前年同月比3.7%減でした。
東京都心3区ではさらに顕著で、 在庫は前年同月比24.2%減。
城東、城南、城西、城北でも、 軒並み在庫は減少していました。
つまり2024年は、
売り物が少ない中で、一時的に取引が止まった。
という市場でした。
2026年は違います。
売り物が増えている中で、取引が減っている。
同じ「成約減」でも、 市場の中身はかなり違います。
図|2024年と2026年。同じ「成約減」でも中身は違う
| 2024年 | 2026年 | |
|---|---|---|
| 成約件数 | 一時減少 | 減少 |
| 在庫 | 減少 | 増加 |
| 売主 | 売り急ぐ必要が小さい | 在庫調整が発生しやすい |
| 市場 | 供給不足の踊り場 | 高値膠着・在庫調整 |
それでも、高額物件から崩れているわけではない
さらに興味深いのが、 東京23区の価格帯別成約です。
国土交通省「不動産情報ライブラリ」の 中古マンション等の成約価格情報を使い、 株式会社 blue blooded で独自集計しました。
| 価格帯 | 2025年1〜3月 | 2026年1〜3月 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 5,000万円未満 | 2,498件 | 2,071件 | ▲17.1% |
| 5,000〜7,000万円 | 1,047件 | 970件 | ▲7.4% |
| 7,000万円〜1億円 | 988件 | 1,013件 | +2.5% |
| 1億〜1.3億円 | 399件 | 505件 | +26.6% |
| 1.3〜1.5億円 | 233件 | 286件 | +22.7% |
| 1.5〜2億円 | 234件 | 318件 | +35.9% |
| 2億円以上 | 225件 | 261件 | +16.0% |
出典:
国土交通省「不動産情報ライブラリ」
成約価格情報を株式会社 blue blooded が独自集計。
対象:東京23区/中古マンション等/成約価格情報。
※同一物件の値上がり率ではなく、成立した取引の価格帯構成を比較したものです。
全体は3.6%減。しかし1億円以上は25.6%増
全成約件数は、
5,624件 → 5,424件
3.6%減っています。
ところが、1億円以上の成約は、
1,091件 → 1,370件
25.6%増えています。
さらに全成約に占める1億円以上の割合も、
19.4% → 25.3%
へ上昇しました。
この数字だけを見ると、 「高額帯ほど強い」と言いたくなります。
ただし、ここには注意が必要です。
このデータを、どう読むか
この数字は、 同じマンションが25%値上がりしたことを意味しません。
売れた物件の立地、面積、築年数、 タワーマンションの比率などが変われば、 成約価格帯の構成も変化します。
また、低価格帯の購入者ほど、 住宅ローン金利の影響を強く受ける場合があります。
金利が上昇して、 低価格帯の取引が先に減少した結果として、 高価格帯の比率が上がった可能性もあります。
したがって、
「東京の高額マンションが一律に25%値上がりした」
と読むのは正しくありません。
ただ、少なくとも、
「金利が上がったので、高額物件から売れなくなった」
という単純な市場でもない。
ここはかなり重要です。
では、誰が価格を下げ始めているのか
ここからは、公開統計だけでは完全には確認できない 当社の見立てです。
現在の市場で価格を下げやすいのは、 必ずしも一般の個人所有者ではないのではないか。
特に考えられるのが、 借入を使って在庫を持つ 買取再販業者や投資家です。
事業者にとって不動産は、 資産であると同時に在庫です。
売れなくても、 金利、管理費、固定資産税、 事業資金の機会費用は発生します。
半年売れない。
1年売れない。
その間にもコストは増えます。
個人所有者なら、
「希望価格で売れないなら、まだ住んでいよう。」
という選択ができます。
事業者には、それが難しい場合があります。
市場調整の初期には、
「売らなければならない人」の価格が先に下がる。
安い成約事例が出たあと、何が起きるか
例えば2億円前後で取引されていたマンションで、 業者在庫が1億8,000万円で成約したとします。
すると次の買主は、
「直近で1億8,000万円の成約があります。」
と交渉します。
相場は一度、下へ引っ張られます。
しかし重要なのは、その次です。
業者在庫が一巡したあと、 個人所有者まで1億8,000万円で売るでしょうか。
急ぐ理由がなければ、
「その価格なら売らない。」
という所有者も出てきます。
すると、売り物の中身が変わります。
在庫件数そのものがすぐ減らなくても、 売り急ぐ在庫が減ることはあり得ます。
在庫の「数」だけでなく、「中身」を見る
在庫が5,000戸ある。
だから価格が下がる。
必ずしもそうではありません。
その5,000戸のうち、 何戸が本当に売らなければならない物件なのか。
逆に何戸が、
「この価格なら売る。」
という、待てる売主なのか。
同じ在庫5,000戸でも、 意味は全く違います。
価格を決めるのは在庫数だけではない。
その在庫を持っている人の事情でもある。
現在は「暴落」より、「誰が先に降りるか」の市場
ここまでを見る限り、 現在の東京市場を 「全面的な価格崩壊」と表現するのは早いと思います。
むしろ、
買い手は高値を追わない。
業者は在庫を整理する。
個人所有者は様子を見る。
成約件数は減る。
一部で安い成約事例が出る。
そうした市場です。
そして本当に重要なのは、 この在庫調整が一巡したあとです。
その時に、 売り急ぐ物件が減る。
一方で買主が戻る。
そして数件の高値成約が出れば、 再び価格の基準そのものが上へ動く可能性もあります。
ただ、それを考えるには、 不動産市場だけを見ていても足りません。
政策金利。
インフレ。
住宅ローン。
個人消費。
企業業績。
為替。
次回は、日本銀行と日本経済全体から考えます。
NEXT / 第2回
政策金利2%で、東京のマンションは本当に下がるのか。
日銀、インフレ、住宅ローン。
その先を、日本経済全体から考えます。
※本稿には、公表資料・市場データをもとにした株式会社 blue blooded の分析・見解・仮説が含まれます。 将来の不動産価格を保証するものではありません。
