
小栗上野介はなぜ処刑された?|勝海舟との対立・徳川慶喜の決断と2027年大河ドラマ
幕末の人物を読む|第二部
小栗上野介は、なぜ処刑されたのか?
勝海舟は明治を生き、小栗は命を落とした。
同じ幕府に仕えた二人の運命は、
なぜ分かれたのか。
2027年のNHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』。
主人公は松坂桃李さんが演じる小栗上野介忠順。
そして、同じ幕臣でありながら、 のちに対立する勝海舟を大沢たかおさんが演じます。
小栗上野介は、 幕府の近代化を進めた人物でした。
しかし、1868年に処刑されます。
一方、勝海舟は江戸城無血開城に関わり、 明治政府でも仕事を続けました。
小栗には何が足りなかったのでしょうか。
あるいは、個人の能力だけでは どうにもならない時代だったのでしょうか。
今回は小栗の生涯を中心に、 脚本家・安達奈緒子さんと 発表済みのキャストから ドラマの展開も予想してみます。
01|小栗上野介は、幕府の中でも異色のエリートだった
小栗上野介忠順は1827年、 江戸の旗本の家に生まれました。
若くして幕府の役人として頭角を現し、 外交、財政、軍事、産業の改革に携わります。
幕末の日本では、 開国か攘夷か、 幕府を守るか倒すかという 政治的な対立が続いていました。
その中で小栗が取り組んだのは、 国家を運営するための具体的な問題でした。
外国と貿易するには、 どのような制度が必要なのか。
軍艦を持つなら、 どこで修理するのか。
外国から機械を買うだけでなく、 国内で技術を身につけるには 何を建設すればよいのか。
小栗は、 理想を語るだけでなく、 それを実現する仕組みを つくろうとした人物でした。
日本を動かす仕組みをつくろうとした。
02|1860年、同じアメリカへ渡った小栗と勝
小栗と勝海舟には、 興味深い共通点があります。
1860年、 二人ともアメリカへ渡っていることです。
小栗は日米修好通商条約の 批准書交換を目的とした遣米使節団の一員として、 ポーハタン号に乗船しました。
勝は、使節団に随行する 咸臨丸に乗り込みました。
二人とも西洋の国力を目にし、 日本の近代化が必要だと考えました。
しかし、その後の政治的な立場は 次第に異なっていきます。
小栗は幕府の制度を立て直そうとし、 勝は幕府という枠を超えて 日本全体を考えるようになりました。
この違いが、 幕末の最終局面で 二人の選択を分けていきます。
03|小栗と勝の違いは、能力の差だったのか?
今回の大河ドラマの制作側は、 小栗と勝を対照的な人物として紹介しています。
幕府を「解体」してでも 実力ある「個人」を活躍させたい勝。
制作側は、 小栗を「堅物のエリート」、 勝を「人たらしの叩き上げ」とも 対比しています。
ただし、史実の小栗を 単なる融通の利かない人物と 考えるのは適切ではありません。
外国との交渉や、 横須賀製鉄所のような大規模事業を 実現しているからです。
勝もまた、 人付き合いのうまさだけで 歴史に名を残した人物ではありません。
二人とも能力があった。
しかし、組織の将来について 考え方が異なっていた。
私は、不動産の仕事を通じて 経営者や専門職の方々と接する中で、 能力が高いことと、 周囲を同じ方向へ動かせることは 必ずしも同じではないと感じます。
正しい構想を持つこと。
その構想を実行すること。
そして、組織として その構想を選んでもらうこと。
それぞれに異なる難しさがあります。
小栗と勝の違いを考えるとき、 この点は興味深いところです。
もちろん、小栗の最期を 性格や人付き合いだけで 説明することはできません。
戦争と政権交代という、 個人の能力を超えた事情があったからです。
04|ドラマ予想|安達奈緒子は、小栗の何を描くのか?
今回の脚本を担当するのは、 安達奈緒子さんです。
『透明なゆりかご』 『きのう何食べた?』 『おかえりモネ』などを 手掛けてきました。
これらの作品では、 立場や価値観の異なる人々が、 簡単には答えの出ない問題に 向き合う姿が印象的でした。
そう考えると、 今回の小栗上野介も、 単なる悲劇の英雄には ならないのではないでしょうか。
松坂桃李が演じる、小栗上野介
松坂桃李さんは、 『新聞記者』『孤狼の血』などで、 内面に葛藤を抱えた人物を演じてきました。
今回の小栗も、 自分の考えが正しいと信じながら、 周囲との関係に苦しむ姿が 描かれるのではないかと予想します。
有能であるほど、 自分が見えている問題を 他人にも理解してほしいと思う。
しかし、その正しさが 必ずしも周囲を動かすとは限らない。
そんな小栗の苦しさを、 松坂さんがどう演じるのか。
大沢たかおが演じる、勝海舟
大沢たかおさんは、 『JIN-仁-』や映画『キングダム』シリーズなどで、 強い信念を持つ人物を演じてきました。
今回の勝海舟も、 小栗を単に否定する人物には ならないのではないでしょうか。
ただし制作統括のコメントでは、 勝が小栗を疎んじたことにも 言及されています。
互いの能力を認め合うだけの 美しいライバル関係ではなく、 反発や政治的な対立も 描かれる可能性があります。
幕府を立て直そうとする小栗。
幕府が終わることも受け入れる勝。
二人がなぜ 同じ道を選べなかったのか。
そこがドラマの見どころになるでしょう。
上白石萌音が演じる、妻・みち
小栗の妻・みちを演じるのは 上白石萌音さんです。
安達さんの過去作品を考えると、 政治の表舞台だけでなく、 家庭の中にいる小栗の姿も 丁寧に描かれるかもしれません。
幕府を立て直そうとする夫。
その夫とともに生きる妻。
政治の判断が、 家族の人生を変えていく。
妻の視点が加わることで、 小栗の最期は 歴史上の事件であるだけでなく、 一人の人間と家族の物語になります。
井伊直弼、吉田松陰、徳川慶喜との関係
小栗の人生には、 井伊直弼、吉田松陰、 徳川慶喜といった人物が関わります。
岡部たかしさんが演じる井伊直弼。
中村倫也さんが演じる吉田松陰。
幕府を支えた人物と、 幕府のあり方を批判した人物。
同じ時代に生きながら、 それぞれ異なる道を選びました。
安達さんが、 政治的な対立だけでなく 人間関係の複雑さを どう描くのかにも注目しています。
05|吉田松陰と小栗。同じ師に学んだ二人
吉田松陰と小栗上野介には、 共通する師がいました。
儒学者の安積艮斎です。
今回の大河ドラマでは、 中村雅俊さんが艮斎を演じます。
幕府を批判した松陰。
幕府の改革を進めた小栗。
政治的には異なる側にいた二人ですが、 同じ時代に新しい日本のあり方を考えていました。
1859年、 松陰は安政の大獄で処刑されます。
1868年、 小栗もまた処刑されます。
歴史は、 正しい側が勝ち、 間違った側が敗れたという 単純な物語ではありません。
06|井伊直弼は、小栗を引き上げた人物だった
小栗の能力を評価した人物の一人が、 井伊直弼です。
井伊は大老として、 開国を進める一方、 安政の大獄によって 反対派を弾圧しました。
小栗は幕府の外交実務で 重要な役割を担うようになります。
政治的な評価が分かれる人物の下で、 有能な実務家が登用される。
幕末の幕府には、 そうした複雑さもありました。
1860年、 井伊直弼は桜田門外の変で暗殺されます。
小栗はその後も、 幕府の改革を続けました。
07|小栗が残した最大の仕事、横須賀製鉄所
小栗の代表的な功績が、 横須賀製鉄所の建設です。
1865年に建設が始まり、 フランスの技術協力を受けて整備されました。
外国から軍艦を購入しても、 修理できなければ使い続けられません。
機械を購入しても、 部品をつくる技術がなければ 外国に依存することになります。
小栗が目指したのは、 完成品を買うだけではなく、 国内でつくり、修理し、 技術を蓄積できる日本でした。
横須賀製鉄所は、 その構想を具体化した事業です。
そしてこの施設は、 幕府が終わった後も 明治政府に引き継がれました。
日本の造船業や機械工業の 発展につながっていきます。
一隻の軍艦ではない。
軍艦をつくり続けられる日本だった。
08|薩摩にも近代化を進めた人物がいた
近代化を進めていたのは、 幕府だけではありません。
薩摩藩でも、 島津斉彬が集成館事業などを進め、 産業や軍事技術の近代化に取り組みました。
その後、 島津久光らの時代にも 薩摩藩の政治的な影響力は高まっていきます。
幕府と薩摩は対立しましたが、 どちらも西洋の技術や制度に 向き合っていました。
幕末は、 古い日本と新しい日本が 単純に戦った時代ではありません。
異なる立場の人々が、 それぞれの方法で 近代化を進めようとした時代でした。
09|徳川慶喜は、なぜ小栗を退けたのか?
1868年、 鳥羽・伏見の戦いで旧幕府軍は敗れます。
徳川慶喜は大坂城を離れ、 江戸へ戻りました。
そして新政府への恭順を選びます。
小栗は抗戦を主張しました。
幕府の持つ軍事力や財政力を使い、 なお戦う余地があると考えていたのです。
しかし慶喜は、 小栗の意見を採用しませんでした。
そして小栗を罷免します。
幕府を立て直そうとしてきた小栗にとって、 最高責任者が戦わないと決めたことは 大きな転換点でした。
慶喜の判断には、 内戦の拡大を防ぐという意味があります。
一方で、 幕臣たちを置き去りにしたという 評価もあります。
この判断をどう描くのかも、 大河ドラマの重要な見どころになるでしょう。
10|小栗上野介は、なぜ処刑されたのか?
罷免された小栗は江戸を離れ、 上野国権田村へ退きました。
現在の群馬県高崎市倉渕町にあたる地域です。
しかし1868年、 新政府軍によって捕らえられます。
そして閏4月6日、 処刑されました。
満40歳でした。
小栗は幕府の有力官僚であり、 抗戦を主張した人物として 警戒されていました。
ただし、 処刑に至った具体的な命令系統や 政治的な意図については 史料上の議論があります。
小栗の死を、 単に「新政府に恐れられたから」と 説明するだけでは不十分です。
それでも、 幕府の近代化を進めた人物が、 新しい時代の始まりに 命を奪われたという事実は重く残ります。
もし小栗が生きていたなら、 明治政府でも能力を発揮できたのでしょうか。
それは誰にも分かりません。
ただ、小栗が進めた事業の一部は、 実際に明治政府へ引き継がれました。
11|勝海舟は、明治になってからも31年生きた
一方の勝海舟は、 1868年に西郷隆盛と交渉し、 江戸城無血開城に関わります。
その後も明治政府で仕事を続けました。
1872年には海軍大輔、 1873年には参議兼海軍卿。
旧幕臣への支援や、 徳川家の名誉回復にも尽力しました。
そして1899年、 満75歳で亡くなります。
小栗の処刑から約31年後のことです。
勝と西郷の会談は、 現在の田町駅近くにあった 薩摩藩の屋敷と深く関わっています。
田町駅の壁画から始まった第一部では、 この会談と2027年大河ドラマの関係を 詳しく紹介しています。
第一部|田町駅の壁画に、なぜ勝海舟と西郷隆盛がいるのか? 内見の途中で見つけた壁画から、江戸城無血開城と大河ドラマへ12|小栗が残した仕事は、明治の日本にも生きた
小栗上野介は、 明治の日本を見ることなく亡くなりました。
しかし、 横須賀製鉄所は明治政府に引き継がれ、 造船・機械工業の基盤となりました。
政治的には敗れた人物の仕事が、 次の時代に受け継がれていく。
歴史の勝者と敗者だけでは説明できない つながりがあります。
その後、 明治の日本では鉄道の建設も進みます。
1872年には、 新橋と横浜を結ぶ 日本最初の鉄道が開業しました。
鉄道は現在の田町・高輪に近い 海岸線を通りました。
横須賀製鉄所と田町の鉄道は 別の事業ですが、 どちらも幕末から明治にかけての 日本の近代化を象徴しています。
田町・芝浦の街が その後どのように変わっていったのかは、 第三部で紹介しています。
第三部|幕末の田町・芝浦で、何が起きたのか? 薩摩藩邸焼き討ち、江戸城無血開城、明治の鉄道と街の成り立ち13|優秀であることと、生き残ること
小栗上野介の人生を振り返ると、 単純に悲劇の天才として 片づけることはできないように思います。
小栗には優れた構想力と実行力がありました。
勝海舟にも独自の構想力と実行力がありました。
それでも、 最後に選んだ道は異なりました。
小栗は幕府という仕組みを立て直そうとした。
勝は幕府という仕組みが終わることも 受け入れながら、 次の時代に関わっていった。
どちらが優秀だったのか、 という単純な比較には意味がないでしょう。
むしろ考えたいのは、 優秀な人間が集まる組織で、 何が最後の決断を左右するのかということです。
正しい構想を持つこと。
それを実行する能力を持つこと。
その構想を支える人々を得ること。
そして組織そのものが変わったとき、 どう行動するのか。
小栗の人生には、 現代の仕事にも通じる問いがあります。
能力が高いからといって、 必ずしも望んだ結末を迎えられるわけではない。
それでも、 その人が残した仕事は、 本人の人生より長く生きることがあります。
しかし、明治の日本には、
小栗が残した仕事が生きていた。
2027年の大河ドラマでは、 この小栗がどのような人物として 描かれるのでしょうか。
松坂桃李さん演じる小栗と、 大沢たかおさん演じる勝。
二人の対立を、 単なる勝敗の物語ではなく、 組織と個人の関係として見てみたいと思います。
NHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』制作・出演者発表
国立国会図書館 幕末・明治人物資料
横須賀市 横須賀製鉄所関連資料
港区史・港区の歴史資料
※ドラマの展開予想は筆者の考察です。
※歴史上の人物の動機や政治的判断には、複数の解釈があります。