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東京の地価は割高か、それとも割安か

ニューヨーク・ロンドン・シンガポール・香港・パリとの50年比較が示すもの 

2025年、東京の不動産市場は静かに、しかし確実に「再評価」の時代に突入した。東京23区の新築マンション平均価格がFY2024に1億1,600万円を突破し、中央6区(千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷)の中古相場が1億6,000万円台に達する現在、業界内外から「バブルの再来ではないか」という声が上がっている。 だが、それは本当か。 50年という時間軸と、世界5都市というスケールで俯瞰したとき、まったく異なる風景が浮かび上がってくる。



Part I / 歴史の文脈:前例なき暴騰と「失われた30年」の地価
 【チャート01:主要6都市 地価指数推移(1975年=100)をご参照ください】 
1975年を起点としたとき、東京の地価が辿った軌跡は、世界でも稀有なドラマである。 1985年のプラザ合意を引き金に急激な円高が進み、日銀は景気対策として超低金利政策を実施した。この「安価な資金」が不動産と株式市場に怒涛のように流れ込んだ。商業地価は1985年から1990年のわずか5年間で約4倍に跳ね上がり、住宅地でも2倍以上に高騰した。 1989年末には日経平均が38,957円の史上最高値を記録。「皇居の土地の評価額がカリフォルニア州全体の不動産価値を上回る」という伝説が生まれたのもこの時代だ。ピーク時の東京都心では、1平方フィートあたり約13万9,000ドル(当時換算)という価格がついており、これはマンハッタンの同等物件の約350倍に相当した。 
しかし1990年、日銀が利上げに転じると状況は一変する。Nikkei225は3年で60%超下落し、都市部地価もピークから**最大70%**の暴落を経験。商業地は1999年時点で1985年水準を下回る惨状となった。 このトラウマが、その後の日本人の不動産観を根本から書き換えた。「土地神話」の崩壊は、単なる資産価値の毀損ではなく、国民的心理への深刻な影響をもたらした。その後の「失われた30年」において、地価は長期にわたり低迷を続ける。



Part II / グローバル比較:他の5都市は、この50年で何をしたか 
ニューヨーク:危機と再生のV字回復 
1975年、ニューヨーク市は財政破綻寸前にあった。当時のマンハッタン地価は現在から想像を絶するほど安価だったが、その後の金融業の隆盛と再開発により、1990年代以降に急激な回復を見せる。リーマンショック(2008年)でも調整は限定的で、現在のマンハッタン中心部の㎡単価は1万8,000〜2万5,000ドル程度を維持している。 
ロンドン:Brexitと資本流出の影 
ロンドンは2000年代に世界の富裕層資金の「避難港」として機能し、KnightsbridgeやMayfairを中心に地価が急騰した。しかし2016年のBrexitと富裕税政策の強化により、ミリオネアの流出が加速。インフレ調整後の住宅価格は2015年比で10%超の下落と、主要都市では稀な長期低迷を経験している。 
シンガポール:小国の奇跡的な長期上昇 
1965年の独立以来、GDP成長率2万%超という驚異的な軌跡を持つシンガポール。政治的安定と強固なインフラ、アジアの金融ハブとしての地位が地価の長期上昇を支えてきた。現在の㎡単価は1万9,000〜2万2,000ドル前後で、「高すぎる」と言われ続けながら上昇してきた典型例だ。 香港:世界最高峰の「割高感」とその後の調整 長年「世界一住宅が割高な都市」の称号を持ち続けた香港。㎡単価は2万2,000ドル超とシンガポールをも凌駕する。しかし2020年の国家安全維持法施行以降、政治リスクと富裕層流出が顕在化し、調整局面に入っている。それでも絶対水準は依然として高い。 
パリ:欧州の安定した地価と観光需要 パリは1990年代の低迷を経て、2000年代以降に安定した上昇基調を取り戻した。短期賃貸需要と外国人富裕層の購入が下支えとなり、㎡単価は1万2,000〜1万6,000ドル程度(中心部)を維持している。 



Part III / 株価との連動:「失われた30年」の株価と地価は同期していたか 
【チャート02:日経225 vs 東京商業地価インデックスをご参照ください】 
日本における株価と地価の関係は、他国にはない特殊な歴史を持つ。バブル期(1985〜1990年)、株価と地価は完全に同期して暴騰した。しかし崩壊後は、両者の軌跡が大きく乖離することになる。 日経225は2024年2月、実に34年ぶりに1989年の高値を更新し、同年7月には42,000円台に到達した。株式市場は「失われた時代」を完全に清算した。 一方、東京の商業地価は2025年時点で「バブルピーク比▲70%(実質)」の水準からようやく回復しつつあるものの、名目ベースでもピーク水準には程遠い。 この「株と地価の乖離」こそが、現在の東京不動産を理解するうえで最も重要な構造的事実だ。 なぜ乖離が生じたか。答えは明快である。1990年代の不良債権処理と銀行の不動産融資抑制が、地価に強制的な「バリュエーション・リセット」をもたらした。その傷が株価より深く、長く続いた。しかし2013年以降のアベノミクス、そして2022年以降の円安・インバウンド回帰・海外資本流入が、ようやくこの乖離を縮め始めている。


 Part IV / 現在の評価:では、今の東京は「割高」か「割安」か
 【チャート03:世界主要都市 都心部㎡単価比較(2025年)をご参照ください】
 ここで整理すべきは、「誰にとっての割高・割安か」という視点だ。絶対水準・相対水準・ファンダメンタルズ、三つの軸から検討する。 
① 絶対水準:生活者にとっては明確に「割高」 東京23区の新築マンション平均が1億1,600万円、中央6区の中古相場が1億6,000万円という現実は、一般的な給与所得者には「届かない価格」だ。年収の10〜15倍という水準は、国際的な住宅購入可能性指標において「severely unaffordable(深刻に割高)」と分類されるレンジに突入している。 日銀の利上げ局面(2024年にゼロ金利から脱却、現在0.5%前後)が続けば、変動金利で購入した層の返済負担が急増するリスクも存在する。
 ② グローバル相対比較:海外投資家にとっては「まだ割安」 一方、シンガポール(㎡2万ドル超)・香港(同2万2,000ドル超)・ニューヨーク(同1万8,000〜2万5,000ドル)と比較した場合、東京都心の㎡単価は5,000〜14,000ドル程度(エリアにより大きな差)と、絶対水準では依然として下位に位置する。 円安も加味すれば、外国人投資家の目には東京は「世界の主要都市で最もコスパが良い投資先」に映る。実際、2024年の日本不動産への外国人投資は前年比45%増を記録し、100億ドルを超えた。東京の中央3区(千代田・渋谷・港)では、新築マンションの20〜40%が外国人購入者というデータも報告されている。
 ③ ファンダメンタルズ:需給と金利が「プチバブル」を警戒させる 2024年の東京23区における新築マンション供給棟数は1973年以来の最低水準。一方、東京への純人口流入は年間約8万人(2024年)という旺盛な需要が続く。人口減少という日本全体のトレンドの中で、東京への一極集中は加速している。この需給の非対称性が価格を下支えしているのは事実だ。 しかし日銀の正常化ペース、トランプ関税に代表される世界的な経済不確実性が、今後の外国人投資家センチメントに影を落とす可能性も見逃せない。 

総括:「グローバルには割安、ローカルには割高」という二重構造 50年の歴史と6都市比較が示す結論は、明確かつ逆説的だ。 東京の地価は、世界の主要都市との絶対比較においてはまだ「割安」な局面にある。 バブル崩壊後の30年間に積み上がった「過小評価の遺産」と、円安が生み出す購買力格差が、海外資本にとっての妙味を生んでいる。
 しかし**国内の実需層・給与所得者から見れば、明白に「割高」**である。購入できる層が絞られ、インフレ・金利正常化の逆風が加わる現局面は、「需要の質的変容」が始まっている可能性を示唆する。 湾岸エリア(豊洲・晴海・勝どき・芝浦)に代表される大型タワーマンション市場では、この「外国人・法人・高純資産層」と「実需の一般層」の二極化が最も先鋭に現れている。当社が拠点を置く港区・湾岸エリアにおいても、この構造変化はリアルタイムで進行中だ。 
問うべき問いは「割高か割安か」ではない。**「誰のための価格か、そして誰がこの市場を次の10年で支えるのか」**だ。 日銀の正常化ペース、インバウンド需要の持続性、そして国内実需の底力——この三つの連立方程式が、東京地価の次章を決める。 

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