ルナ・アズールは冬は青森へ行かない|品川から草津へ向かう昼行列車と長野原草津口の鉄道史の画像

ルナ・アズールは冬は青森へ行かない|品川から草津へ向かう昼行列車と長野原草津口の鉄道史

地盤と、街のなりたち

ルナ・アズールは、冬は青森へ行かない 品川から草津へ。もう一つのルナ・アズールと、冬の昼行列車の話

前回、新しい特急列車「ルナ・アズール」について書きました。

品川から青森へ、日本海側を通って向かう夜行列車。

ありがたいことに、想像していた以上に多くの方に読んでいただきました。

ところが、記事を書いたあとで、 一つ大事なことに気づきました。

ルナ・アズールは、一年中、青森へ向かう列車ではない。

前回の主役は、春から秋の夜行列車でした。

品川を夜に出て、翌朝、青森に着く。

けれど、ルナ・アズールにはもう一つの顔があります。

冬です。

冬のルナ・アズールは、青森へは向かいません。

夜行でもありません。

昼間に走り、向かう先は、

群馬。草津方面です。

前回の記事|ルナ・アズール、品川から青森へ向かう夜行列車の話 →

TWO FACES

一本の列車に、季節で違う二つの顔がある

ここが、ルナ・アズールの面白いところです。

同じ車両を使いながら、 季節によって、まったく性格の違う走り方をします。

春季〜秋季

品川 → 青森(夜行)

日本海側を一晩かけて北上。10両編成・定員125名・週2往復。


冬季

品川 → 長野原草津口(昼行)

群馬・草津方面へ日中に運行。7両編成・定員150名・週6往復。

行き先が違う。

走る時間帯が違う。

編成の長さも、定員も、走る頻度も違う。

夜行のときは10両で125名。

冬の昼行では、一部車両を切り離した7両になり、 一方で1部屋あたりの人数を増やして定員150名になります。

同じ名前の列車なのに、
夏と冬で、別の列車のように走る。

なぜ、冬は青森ではなく草津なのか

ここからは、私なりの見方です。

JR東日本が「冬は青森を避けて草津にした」と 公式に理由を説明しているわけではありません。

ただ、地図と季節を重ねて考えると、 この使い分けはかなり理にかなって見えます。

ルナ・アズールの夜行ルートは、 上越線から羽越本線へ抜け、日本海側を北上します。

冬の日本海側は、国内有数の豪雪地帯です。

一晩かけて雪の中を走る夜行列車は、 楽しみである一方、安定した運行という点では難しさもあります。

一方、冬にこそ価値が上がる場所があります。

雪見の露天風呂で知られる、草津温泉です。

春から秋は、夜行で青森へ。

冬は、昼行で温泉へ。

一本の車両を、季節ごとに異なる旅へ使い分ける。

そう考えると、この二つの顔は、 別々の列車というより、一つの列車が持つ二つの旅に見えてきます。

A SLEEPER YOU CANNOT SLEEP ON

正直に書くと、寝台列車は「くつろげない」

ここで、少し正直な話をします。

私はこれまで、カシオペアに乗り、 サンライズ出雲にも乗りました。

どちらも憧れの寝台列車です。

乗れたことは、今でも大切な記憶です。

ただ、一つだけ本音を言うと、

寝台列車は、思ったほどくつろげません。

走行中は、音がします。

振動があります。

レールの継ぎ目を越えるたびに、体が揺れます。

ホテルの部屋のように、ぐっすり眠れるわけではありません。

では、がっかりしたのか。

まったく逆でした。

寝台列車は、くつろぐための乗り物ではない。
乗っていること自体に、意味がある乗り物でした。

揺れも、音も、夜の暗い車窓も、ぜんぶ含めて旅でした。

だからこそ、ルナ・アズールの二つの顔を見たとき、 あることに気づきました。

もしかすると、冬の草津のほうが人気が出るかもしれない

夜行列車は、「乗ること自体」を楽しむ乗り物です。

けれど、くつろいで眠れるかというと、そうとは限りません。

音と振動の中で一晩を過ごすのは、 好きな人にはたまらない体験ですが、 万人向けとは言いにくい部分もあります。

一方、冬の草津ルートは昼行です。

品川を午前に出て、昼過ぎに着く。

眠る必要がありません。

昼行なら、「乗る時間を楽しむ」ことと
「ゆっくりくつろぐ」ことが、両立します。

全室個室で、ラウンジがあり、外は冬の山の景色。

眠れないストレスがない分、 純粋に車内で過ごす時間を味わえます。

夜行は、鉄道好きの心をつかむでしょう。

でも、 「夜行はハードルが高いけれど、個室列車には乗ってみたい」 という人にとっては、 昼行の草津ルートのほうが入りやすいはずです。

週2往復の夜行に対して、冬の草津は週6往復。

本数の多さも、その「入りやすさ」を後押しします。

派手なのは、夜行の青森です。

けれど実際に多くの人を運ぶのは、 冬の草津のほうかもしれません。

NAGANOHARA-KUSATSUGUCHI

そもそも「長野原草津口」とは、どういう駅なのか

ここで、終点の駅名そのものを少し掘ってみます。

長野原草津口。

少し変わった駅名です。

この名前は、二つの言葉からできています。

長野原  … 駅がある群馬県・長野原町の地名

草津口  … 草津温泉への「入口」という意味

つまりこの駅名は、 「長野原町にある、草津への入口の駅」 という意味です。

実はこの駅、最初から今の名前だったわけではありません。

1945年に 「長野原駅」 として開業し、 その後1991年に 「長野原草津口駅」 へ改称されました。

「草津口」という名前からも、 この駅が草津温泉への玄関口であることが伝わってきます。

駅名に「口」が付いている。
これは、鉄道が草津まで届いていないという意味でもあります。

なぜ、鉄道は草津温泉まで登らないのか

草津温泉への最寄り駅は、長野原草津口。

けれど、そこから温泉までは 約13km離れています。

駅を降りてもまだ着きません。

ここからJRバスに乗り換え、 およそ25分で草津温泉バスターミナルへ。

バス運賃は片道780円ほどです。

なぜ、鉄道は温泉街まで直接行かないのでしょうか。

理由の一つは、地形です。

草津温泉は、標高が高い山の中にあります。

温泉街はおよそ標高1,200m前後。

一方、長野原草津口駅は、それよりずっと低い谷あいにあります。

つまり駅から温泉までは、 一気に山を登らなければなりません。

急な勾配は、鉄道が最も苦手とするものです。

ここでも、前回・前々回の記事と同じ話が出てきます。

鉄道は、山を登るのが苦手。
だから温泉街の手前、谷の「口」で止まる。

LOST MOUNTAIN RAILWAY

かつて、草津まで登る鉄道があった

ところが、歴史をたどると面白いことが分かります。

昔は、草津温泉まで鉄道が通じていました。

草軽電気鉄道。

軽井沢と草津温泉を結んだ、高原の鉄道です。

大正時代に順次開業し、 軽井沢側から山を登って、 草津温泉には 「草津温泉駅」 まで置かれていました。

ただし、山岳地帯を登る鉄道です。

約55kmの道のりに2時間半から3時間かかる、 非常にゆっくりとした高原鉄道でした。

勾配を無理やり登るため、 スイッチバックが何か所もありました。

しかし、 国鉄線が長野原まで通じたことに加え、 戦後の道路・バス網の発達もあって利用が減り、 台風による橋の流失も重なって、 1962年に全線が廃止されました。

山を登る鉄道は、消えた。
そして今、鉄道は「草津口」で止まっている。

かつて草津温泉には「駅」がありました。

けれど現在、草津温泉に鉄道の駅はありません。

ルナ・アズールが向かう「長野原草津口」という駅名をたどると、 現在の吾妻線と、かつて草津まで登った高原鉄道の歴史 まで見えてきます。

品川 →(ルナ・アズール・昼行)→ 長野原草津口 →(JRバスで山を登る 約25分)→ 草津温泉

実は、草津へ向かう特急は、すでにある

ここで、鉄道に詳しい方なら思うはずです。

草津へ向かう特急なら、すでに走っている、と。

その通りです。

現在、上野と長野原草津口の間には、 特急 「草津・四万」 が走っています。

高崎線から吾妻線を経由して草津温泉の玄関口へ向かう、 全車指定席の温泉特急です。

では、すでに草津へ特急が走っているのに、 なぜルナ・アズールまで草津方面へ向かうのでしょうか。

ここでも、二つの列車は性格が違います。

特急「草津・四万」

上野発着。高崎線・吾妻線経由。 温泉地へ「移動する」ための、実用的な温泉特急。


ルナ・アズール(冬)

品川発着。全室個室とラウンジ。 「乗ること自体を楽しむ」ための列車。

草津・四万は、できるだけ早く温泉へ着くための特急。

ルナ・アズールは、温泉へ向かう時間そのものを楽しむための列車。

同じ草津方面でも、
「速く着く特急」と「乗る時間を味わう列車」は別物です。

前回の夜行で書いたことと、同じ構図です。

ルナ・アズールは、最短で目的地へ着くための列車ではありません。

冬もやはり、始発は「品川」

もう一つ、見逃せない点があります。

冬の草津方面でも、ルナ・アズールの始発は 品川です。

草津へ向かう既存の特急「草津・四万」は、上野発着。

一方、ルナ・アズールは春から秋の青森方面も、冬の草津方面も、 品川を起点とする計画です。

前回の記事でも触れましたが、 品川は羽田空港と京急線で直接つながっています。

そして品川から、首都圏を北へ向かいます。

春から秋は青森へ。

冬は長野原草津口へ。

行き先は季節で変わっても、 品川を起点に、国内外の旅行者を各地へ運ぶ という発想は一貫しています。

ここにも、前回見た「品川始発」の意味がつながっています。

LUNA AZUL / WINTER

一本の列車で、日本の二つの季節を旅する

春から秋は、日本海側を夜行で北へ。

冬は、昼行で群馬の温泉へ。

行き先も、時間帯も、編成も違う。

それでも、どちらも品川から始まり、 どちらも「移動する時間そのもの」を旅にしています。

速く着くための列車ではなく、
乗っている時間を楽しむための列車。

前回の青森、今回の草津。 二つを並べると、ルナ・アズールという列車の考え方が、 もう少しはっきり見えてきます。

※ ルナ・アズールは2027年度の運行開始が予定されている列車です。 運行区間・編成・ダイヤ・料金などは本記事執筆時点で公表されている計画に基づくもので、 今後変更される場合があります。具体的な運転日や料金、車内サービスなどは、 JR東日本の正式発表をご確認ください。

参考: JR東日本|新たな特急列車「ルナ・アズール」が2027年度初に運行開始
長野原草津口駅・草軽電気鉄道の沿革は、各鉄道・地域の公開資料によります。

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blue blooded

不動産は、物件から始めない。

街を知ること。
鉄道を知ること。
人がどこへ向かい、どこから来るのかを知ること。

一見、不動産とは関係のない一本の列車にも、
街と人の流れを読むヒントが隠れています。

先に、お話を。

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