
媒介を取られた。それでも、1年後に必ず戻ってくると思っている理由。
不動産仲介の仕事をしていると、「正しいことをした結果、負ける」という場面がある。
売主の希望価格は実勢価格より約30%高かった。普通の仲介業者なら「わかりました、その価格で出しましょう」と即答する。そうした方が媒介契約は取れる。売れなくても「市場が悪い」で済む。業者として、それは合理的な判断だ。
私はそうしなかった。
売主にこう伝えた。「今の実勢価格と希望価格には乖離があります。ただ、このエリアの地価上昇トレンドを見ると、1〜2年で追いついてくる可能性がある。急がないなら、希望価格のまま募集しっぱなしにする選択肢があります。売れた時には仲介手数料もディスカウントします。」
売主は納得してくれた。媒介契約を結んだ。
その後、中堅業者が売主に直接アプローチしてきた。おそらく「その価格で頑張ります!うちに任せてください」というトークだったと思う。媒介を持っていかれた。
悔しいか、と聞かれれば——正直、悔しい。
ただ後悔はしていない。売主にとって正しい提案をした自信がある。「1〜2年待てば希望価格で売れる」という見立ても変わっていない。だから地価が追いついたタイミングで、改めてアプローチするつもりでいる。その時に「あの時の松村の話、正しかった」と思ってもらえれば十分だ。
不動産仲介は、目の前の一件だけで完結する仕事じゃない。嫌がられても、媒介を取られても、正直に言い続ける。それが結局、長く続けられる唯一の方法だと思っている。
blueblooded|松村 健一
東京都港区田町・芝浦