
Vol.1|東京の地盤を決める3つの地形単位 武蔵野台地・多摩丘陵・関東ローム層を知れば、物件選びが変わる 執筆:株式会社blueblooded
「東京西部は地盤が良い」という話を聞いたことがあるだろう。これは半分正しく、半分は危険な思い込みだ。地盤を「区」や「エリア名」で語ることには限界がある。本当に安全な土地を選ぶには、まず地形の成り立ちを知る必要がある。
東京の地形は3つに分解できる
現在の東京23区の地盤は、大きく三つの地形単位に整理される。武蔵野台地、多摩丘陵、そして東部に広がる沖積低地だ。
武蔵野台地は多摩川と荒川に挟まれた洪積台地で、標高はおよそ30〜40メートル。関東大震災(1923年)においても被害が相対的に少なかった地域として記録されており、現在も東京都が実施する「地震に関する地域危険度測定調査」で練馬区・杉並区・目黒区・文京区の台地部分が上位に並ぶ。
東部の沖積低地は足立・葛飾・江東・墨田・荒川区が中心で、江戸時代以降の埋め立てと干拓によって形成された。地震の揺れ増幅率は台地の約1.5〜2倍に達し、液状化リスクも高い。「東京の地盤は西高東低」というのが出発点だ。

関東ローム層の二面性
武蔵野台地の表面を覆うのが関東ローム層(赤土)だ。富士山や箱根などの火山灰が数万年にわたって堆積したもので、粘性が高く地耐力がある。住宅地盤として概ね良好とされ、これが「台地=安全」という評価の根拠の一つになっている。
ただし「厚ければ安全」ではないのが落とし穴だ。ローム層が10メートルを超えると、低周波の地震動(周期1〜2秒、いわゆる「キラーパルス」)を増幅しやすくなる。産総研(産業技術総合研究所)の研究によれば、多摩丘陵では最大20メートル以上のローム層が堆積している地点があり、標高が高い場所であっても揺れが大きくなるという現象が確認されている。
東日本大震災の際に宇都宮市東部〜芳賀町の丘陵地帯で被害が集中したのも、この「厚いローム層による揺れ増幅」が主因だったとされる。「高台だから安全」「関東ローム層があるから安全」という二つの思い込みは、ここで崩壊する。
地表からは見えない「埋没谷」
2021年、産総研が公開した3次元地質地盤図によって、武蔵野台地の地下に大規模な埋没谷が存在することが明らかになった。約14万年前に形成された古い谷が、その後の堆積によって埋め戻され、地表からはまったく見えなくなっているものだ。
特に大きな埋没谷が2箇所確認されている。一つは田園調布の西側から等々力・上野毛・祖師谷大蔵・成城にかけての世田谷区の広いエリア。もう一つは中野駅あたりから新宿・代々木・渋谷・恵比寿・大崎・高輪・鮫洲方向に伸びるルートで、海側に近づくほど谷が深くなる。
この埋没谷の上部では、台地面であっても木造住宅に被害を与えやすい低周波振動が発生しやすいことが、常時微動観測データで確認されている。「武蔵野台地上だから揺れにくい」という常識は、地下の情報を加えることで大きく修正される必要がある。
湾岸タワーマンションの正しい評価
一方で、湾岸エリアの高層マンションについても誤解がある。豊洲・有明・晴海・芝浦などの湾岸タワーマンションは確かに液状化リスクの高い埋立地に建っているが、建物の基礎杭は支持層(東京礫層)まで到達している。この支持層の深さは60〜80メートル程度で、そこまで杭が打たれていれば建物構造体の安全性は別途評価が必要だ。
問題はエリア全体のリスクにある。大規模な地震が発生した際の帰宅困難、インフラ途絶、橋の損傷による孤立リスクは、建物の安全性とは別の問題だ。「建物は安全、街は脆い」という2軸を分けて考えることが、湾岸不動産の正しい見方だ。

地形カード早見表
武蔵野台地(台地平坦部)
揺れ:低 / 液状化:低 / 水害:低
推奨エリア。練馬・杉並・目黒・文京の台地面。
武蔵野台地(埋没谷上)
揺れ:高 / 液状化:中 / 水害:中
地表は台地でも地下の軟弱層が揺れを増幅。要注意。
多摩丘陵
揺れ:中〜高 / 液状化:低 / 水害:低
ローム層が厚く高台でも揺れやすい。八王子・町田・横浜北部。
沖積低地(東部低地帯)
揺れ:中〜高 / 液状化:高 / 水害:高
足立・葛飾・江東・墨田区。揺れ増幅率は台地の約2倍。
湾岸埋立地
揺れ:中 / 液状化:最高 / 水害:高
建物構造は別途評価要。エリア全体の帰宅困難リスクあり。
出典:産総研 都市域の地質地盤図(2021) / 東京都首都直下地震等による東京の被害想定(令和4年) / 地盤ネット 東京都区市町村いい地盤ランキング(令和元年)